て笑ったって叱りもしない代り一緒に笑いもしない伯母の真向うに坐って、面白くなれないのだった。猫もいない空台所へシューラは出て行った。
伯母が云った。
「もうどのくらいですむかい?」
「五インチばかり」
「すんだら畑みて来てくれないか」
耕地で男が二三人水はけをやっている。
原っぱの端のジャガいも畑は、悪い天気あげくで作物がちぢみ、かえってまわりの雑草が伸びたように感じられた。七月だのに、ジャガいもは花を開くどころではない。
ナースチャは、鍬の根っこを両手で握り、空地のまわりの浅いくぼみをほじくりかえした。ここは土地が一帯低いのだから、ナースチャが畑のそとの雑草の根の間へちっとやそっと鍬目を入れたって、溜水は日が照りつけるまで大してひきはしないのだ。
ナースチャは、熱心に鍬を動かしたり、ぼんやり原っぱを見渡したりした。灰色につめたく光る空が野の上にあった。堤防では、通る人もない。
仔豚が一匹往来に出ていた。たんぽぽや馬ごやしの茂った往来端の柔かい泥へ鼻をつっこんだなり、一心不乱に進んで行く。ナースチャが振りかえってみると、かなり遠くからもぐらの掘りあげたような泥がつづいてい
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