さ……。汽車が通る時は鉄橋じゅうがふるえた。
欄干《らんかん》にしがみついて、顔にかかるあつい息や、頭がしびれそうに轟然とたくさんの輪が重って目の前をころがり通るのを見送ってしまうと、子供らは一せいに橋桁の上へ躍り出して、手をたたき笑った。ナースチャもほかの子供も裸足《はだし》であった。鉄橋のかなたは原で、村の共同物干場があった。いろんな色のぼろ[#「ぼろ」に傍点]が、原のおっぴらいたなかに見えた。
メストコムからもらって来た紙をもって、ナースチャは食堂へ入って行った。夕食後であった。パーヴェル・パヴロヴィッチがシャツだけで長椅子の上に長くなって、パイプをふかしている。アンナ・リヴォーヴナは第二回|工業化《インダスリザーチア》株券のことを話していた。
「なんだい、ナースチャ」
ナースチャはアンナ・リヴォーヴナが肱をついているテーブルのそばに立った。
「これに書きこんでいただきたいんです」
アンナ・リヴォーヴナは自分の腕越しにナースチャの差し出している紙を見下し、けげんそうにのっそり二つの肱をテーブルからおろした。
「……なんなのさ、一たい」
「わたし、組合《ソユーズ》に入りた
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