の?」
「食糧のことをしていたんですけど、なんて云うんでしょうか。……兄さんはボルシェビキだったんですよ。出かける時、お父さんがそれはしっかり兄さんを抱いて接吻してね、兄さんの唇から血が出るほどきつく接吻したんです。兄さんもお父さんに接吻してね、そして出かけて行ったんですよ」
アンナ・リヴォーヴナは溜息をついて、しばらくしてきいた。
「伯母さん、親切にしておくれかい?」
ナースチャは、白木綿の襯衣《コフトチカ》の背中へ手を廻し、それを下へひっぱるような身振りをしながら短く、
「あたりまえです」
と答えた。
「どこかへつとめちゃいけないの? ナースチャ」
「村には仕事がないんです」
「……そうやって伯母さんのところにいつまでいたってしようがあるまいねえ……いくつ? お前さん」
「来月で十七です」
「モスクワへでも来りゃいいのに」
なかばひとり言のように云い、アンナ・リヴォーヴナは立ち上って、仕立代をナースチャに渡した。
「じゃ、布地はこのつぎ伯母さんが見えた時、つもって貰いますからってね」
五
いままで知らなかった感じがナースチャの心に生じた。モスクワへ、自分
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