徴なのだそうである。
櫓から眺めると、風の中にはあっちにもこっちにも微かな音を立てて自動汲出しをしている櫓ばかりで、人影は大して見当らない。作業が機械化され労働者一人が大体十五の汲出櫓を持っているということである。労働者総数五万人、党員[#「党」に「×」の注記、底本の親本「河出書房 宮本百合子全集」で伏字を起こした個所]は千二百人。平均収入はその時分八時間で八十留。重い労働には六時間で牛乳が支給される。後でわかったことであるがドン・バスの炭坑でも、条件のわるい坑内労働はこの六時間交代、牛乳支給が行われているのであった。労働者生活改善費に今年は五十万|留《ルーブリ》を予算してあるとその技師は説明した。
「資本主義時代は平均十二時間、三十五留――韃靼人やアルメニア人は同じ労働で、半額が普通だったです。――」櫓を降り、変にポタポタと靴の裏にはりつくような地面を事務所の方へ歩きながら、その技師は、バクーの油田が無慮二百七十の大小会社によって無統制に掘りかえされていた時代の恐ろしい競争の状態を話した。
湧出道を奪うためにはあらゆる悪辣なことを平気でやりあった。従って汲出櫓一台当りその頃は二年
前へ
次へ
全18ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング