間で二十五万留ぐらいの成績しか挙げられなかった。現在では一台が二ヵ月で八万留。二年にすれば凡《およ》そ九十六万留を掛取するようになったのだそうである。
「カリフォルニアの石油は広いが浅いのです。……もう十五年経つとアメリカはわれわれの石油を買いますよ、――いや、もうベンジンやガソリンは買いはじめている」
烈しい風に吹きとばされまいとして、私は外套のカラーを片手で頸のまわりに押え、技師の鼻先へ耳をつき出してそういう話をききとるのである。三人をのせた大型パッカードはバクーの市から十二露里隔った通称「黒い町」大油田へ向って矢のように走っている――。
四
坦々とした一条のコンクリート道が曇った空の下に高く堤防のように延びている。声が千切れてとぶほどの勢で自動車はその上を走り、行手も、来た方も不機嫌な灰色の空があるばかりである。
数露里行ったところで、はじめて一台の韃靼人の荷馬車をビュッと追い抜いた。幅のせまい、濃い緑、赤黄などで彩色した轎《こし》型の轅《ながえ》の間へ耳の立った驢馬をつけ、その轡《くつわ》をとって、風にさからい、背中を丸め、長着の裾を煽られながら白
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