スとその同盟軍とに対して、バクーの労働者は生命を賭して戦った。石油が真に住民の富源となったのは、全くそれ以後のことなのである。
夜ホテルの屋上で食事をしていると、暗いカスピ海の面に、イルミネーションをつけた船が三隻ある。艫からメイン・マスト、舳へと一条張られたイルミネーションは遠目に細かく燦めき、海面の夜の濃さを感じさせた。
室へ帰って手帳に物を書いていたら、薄いカーテンに妙に青っぽい閃光が映り、目をあげて外を見ると、窓前のプラタナスに似た街路樹の葉へも、折々そのマグネシュームをたいた時のような光が差して来る。不思議に思って首をさし出したら、つい先が小公園であった。そこで野天映画をやっている。音響もなく人声もせず、ただ街路樹の葉ごしに、大きく黒く銀幕の上で動く人物の足の一部分が見えたりする。――軈《やが》てそれを観に自分たちも室を去った。
三
風がきつい。石油が細いピストンのようなものの間から吹き出して、私のブラウズの胸にかかった。おやと云っているまにもう風に散らされ、しみ[#「しみ」に傍点]が微かにのこったばかりである。汲出櫓の上に登っているのであるが、
前へ
次へ
全18ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング