昔を今に
――なすよしもなき馬鈴薯と綿――
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)薯《いも》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四〇年三月〕
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三四日、風邪で臥ていた従妹が、きょうは起きて、赤い格子のエプロンをかけ、うれしそうにパンジーの鉢植をしている。
その縁側の外に立って、私はシャベルで縁の下の土を掬っては素焼の鉢にうつした。この従妹は田舎の家で土いじりの好きな父親の対手をしていたものだから、いろいろのことに自然通じていて、そうやって鉢へ入れる土も、縁の下のでなければだめ庭土はすっかり凍っているからと、私に教えるのであった。
うちには、庭と呼ぶ狭い空地が鉤のてに建られた住居と、隣家の羽目との間にある。東は竹垣でそちらからの日光はよくさすが南側はいきなり前の家の羽目になっているから、狭い空地の半分以上はその蔭に入ってしまう都合になる。従妹がパンジーをいじっている座敷の縁側から畳三尺ほど春日はうららかに照っているが、庭の南側の端れには、八つ手の大きいのが一本、赤い実のついた青木が一本、生えて
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