った。そして、目をはっきりさせようと二つ三つ瞬きをして、そこの地べたを見下した。何もほかのところと変ったことはない。もし変ったところと云えば、枝を手にもっている若い男の足許のところに、赭土を区切って一間四方ぐらい畑土が黒くつまった場所があるが、そんなところはこの地下げが始ったときからあって、こう見わたしたところ、敷地全体にちらばって二十や二十四五ヵ所、色ちがいのところはあるのだ。
 用心ぶかく沈黙を守っている猛之介を合金の庶務が、その若い背広に紹介した。猛之介は、おとなしそうな若い男の顔へ、力のこもった視線を凝《じ》っと注ぎながら、何があるんですかな、と訊いた。竪穴が発見されたんです。この新しい黒土がつまっているところですね。ここに、大昔、人間が棲んでいた竪穴があるんです。若い男は人のいい嬉しそうな笑顔で、実に珍しいんです、このように聚落をなしているのは。と云うのであった。ふーん。じゃ、あっちのもみんな、その穴ですね? そうですとも。功労者は、この小関君です。というのを見れば、それは中学の帽子をかぶった十六七の少年で、これも笑いひろげた口元が血色のいい頬っぺたを無邪気に盛り上げている。
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