穴からは何か出ますかね。それは、発掘してみなければ分りませんが、土器は確に出るでしょう。淡白な答えで、猛之介に何となくその先の質問を出しかねさせた。猛之介のききたいところは、その土器というのは金目のものなのか、そうでないものか、という点なのである。
 一団は、あちこちで掘りかえされている赭土の地肌から陽炎《かげろう》のたつ日向をゆっくり歩いて、改正通りの方へ出た。バスへのる迄注意していたが、洋服連の話は呑気で、大森の貝塚がどうのこうのというようなことばかりであった。
 猛之介は、むずかしい顔つきで下唇をつき出しながら、独り又敷地の方へ戻った。モッコをかついだ人夫の往来を漫然と眺めながら、落付かない気がした。猛之介は気を引くように人夫頭の吉永に向って、ふん、物好きもあったもんだね、いくらかになるんかい、土器とかを掘り出して、と云ってみた。研究だろう、大学の方の連中だってえもの。これもあっさりした返事である。
 じろりと吉永に一瞥を与えて、猛之介は敷地の外へ出た。どいつもこいつも、はぐらかしたような返事ばっかりする。吉永だってわかるもんか、初めっからあすこにいたからには、うまい話なら一丁の
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