っていない筈はない。本当のことなんか云うものか。若し一文にもならないようなことなら、あんなに皆うれしそうな光った眼をする筈はありっこないのだ。これが猛之介の信念である。
 整理組合のガラス戸越しにのぞくと、役員の中では一番年配の岩本が、ぽつねんと一人で外を見ているところであった。猛之介は、どうだね、いい話はないかね、と云いながら入って行った。岩本はすこし耳が遠いので、その挨拶には答えず、どうしたね、何か用かねと、新聞を片よせた。そこで猛之介は、昭和合金の敷地に竪穴が出たこと、そこから土器が出るらしいことを話した。へーえ、あすこからそんなものが出るのかね。じゃあ、よそにもあるかしんねえな。ふむ。土器なんてもな、どうなんだね、金になる代物かね。さあ。――とにかく博物館にゃ多分そんなようなもんも納めてあったな。
 猛之介は、何んでもない世間話をして、そこを出た。博物館にも納っているとすれば、いずれ何か曰くはある物に相違ない。わるくひとにさわがれてしまうと工合がよくない。家へ戻るとセキが、声をひそめて、お父さん、何だったね、とよって来た。猛之介は例の見据えるような見かたで女房を顧みながら、何か
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