研究で、穴を掘るんだとよ。樫の木の下の肥溜めに向って放尿しながら答えた。

 敷地のぐるりがトタン塀で囲われた。職人の掛小屋が出来た。真先に門の横の番人小屋が出来はじまって、建築が着手される一方で竪穴の発掘も進行した。天気さえよければ朝早くから夕方まで、例のおとなしい顔の若い男がやって来て、人夫を指図し、自分でも泥んことなってかたい古い赭土の表面へ黒い布をはいだようなところを掘っている。中学生もよく来た。あらまし人夫に黒土を掬い出させたあとは、この連中が軍手をはめた手に園芸用のシャベルをもって、用心しいしい深さ一尺ぐらいで長方形をしたその穴を掘りおこして行くのである。こわれたりしては困るものが底に埋っていることは、若い者に似合わないその仕事ぶりの細心な根気よさでよく判る。
 猛之介は、ぶらりと来かかったふりをして一日に幾度か仕事場へ入りこんだ。そして穴の成りゆきを観察し、掘っている連中の手元を監視した。骨董は天井知らずの価になって来ている。この間も、支那の骨董を種に何百万円かの詐欺がばれたことが新聞に出ていた。土器と云えば、かわらけの類だろう。そんなことを云ったって剣ぐらいは出るかもし
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