れない。猛之介はそう思って、見ている。
 丁度、竪穴の一つに、竈《かまど》だというものが掘り出されたとき猛之介は居合わせて仔細に見届けた。穴の北側の壁の真中辺を掘っていた中学生が、オヤ、と叫んでシャベルの手を止め、井上さアーンと、もう一つの穴の中に跼《かが》んでいる若い男を呼ばわった。ちょっと! 何かあるらしいですよ。焼けた粘土が出ましたよ。すると井上という男が駆けて来て、そう、竈かもしれない、変に声をのんだような調子で云うと、二人は物も云わず、シャベルと手とで土をとりのけ始めた。殆ど昼からじゅうかかって二人が掘り出したのは粘土で厚くかためた焚口の、火床から外へ煙出しの通じた一つの原始の竈であったが、井上は、そうやって猛之介が飽きもしないで見ているのを、面白がって眺めていると思ったらしく、いかにもよろこびを共にわかとうとする笑い顔で、こんなに完全な形で竈がのこっていることは珍しいんです、と額の汗をシャツの腕で気持よさそうに拭きながら云った。ここに、ホラ、底のぬけた甕がさかさにしておいてあるでしょう。これは竈で炊事するとき甕の台につかったものですね。こんな時代にも、やっぱり廃物利用をした
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