で囁いた。昭和合金さ売った地面から、何か出るんだとよ。人よせが始まってるとよ。――おら始めて今聞いたが。
 顎をひく表情でそれをきいていた猛之介は、黙ったまま大きく両方の掌をうちあわせて塵を払うと、そのまま畑から出かけた。
 行ってみると、注進どおり合金の庶務という男と、請負の現場監督と、人夫頭と、ほかにこれまで見たことのない洋服の若い男が三人、もう地下げの済んでいる地点にかたまっている。紺の服を着たおとなしそうな若い男が、そこから拾って来た枝の先で、地べたの上をさしながら何か説明している。猛之介の現れたときにはそれが殆ど終って、庶務の男が、ふーん、そういうものだとは知らなかった。こんなにかたまってあるのは珍しいんですかね。いや、きっと承知しますよ。飯島君、事務所の方からかかってゆけば、こっちは秋ぐらいになるんだろう? と、何かその若い男の肩をもった調子で云っているところであった。飯島も、おだやかに、さア、秋まではどうかしらんが、夏いっぱいは大丈夫ですよ。それに大体こっち半分は庭になるんだししますからね。そう返事をしている。
 猛之介は人々のその輪の間へ、や、と頭一つ下げてわり込んで行
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