。土地を売買するときには面積を云って厚みを云わないところに、猛之介の目がついて、今度昭和合金との間に話がはじまりかかると早速そこへ人夫を入れて、表面の土をならし一間ぐらいの深さにこそげとって、その下のかたい赭っぽい土のところで、一町歩売りわたしの契約をした。猛之介は、こりゃ双方仕合わせでした、と云った。あんたの方も重い機械を据えつけなさって、じき土台がめりこむような畑土じゃこまるだろうし。
 こそげた土は、鮮人人夫が毎日働いて、敷地のずっと西端れの沢の近くの凹地へ運んだ。売れた土地はこのようにして地下げされ、売れない方の土地はこのようにして地上げされて、やがては買い手のつくようにされたのである。地下げしても、昭和合金の敷地は改正道路と全く水平だし、昔は一帯の小高い丘陵をなしていたその辺を開鑿して通してある道路の方から登って来れば敷地の端れはそれでもなお、大人の身丈より高い位置に、地層の断面を見せてはいるのであった。
 マーブル荘という窓枠の桃色ペンキで塗られてあるアパートの新築工事を少時《しばらく》立って見ていて又ぶらり、ぶらりとかえりながら、猛之介は余り浮かない気分である。けさの新聞
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