。火事だア、とどんな言葉で叫んだのだろう。そして、奇妙なことに、竪穴の面積が小さいせいか、みんなの体が今の大人よりは小さかったように思えた。その小さい連中が、ここをあっちこっちへ駈けまわったようで、いつか見た火事の記憶から、その太古の火事も、沢のむこうの櫟《くぬぎ》林がうす蒼く輝いてかすんでいる風のない月夜に、ボーと赤く燃え上ったとしか思えないのであった。

 感銘の生々しいつよさが、発掘の終ったこととも結びついて、辰太郎はその晩妙に悲しい心で眠った。或る朝目が醒めたら、いかにも夏の末らしい雨降りであった。幅のひろい雨がザアと降っている。すぐ、竪穴はどうしたろうと、辰太郎は思った。猛之介は、町会議員の補欠がどうこうということで朝飯をしまうと耳の遠い岩本と番傘をさして出て行った。小やみになったとき、辰太郎はゴム長で、開鑿道路のひどい泥濘の中を歩いて、昭和合金の仮通用門を入って行った。職人はペンキ屋が一人来ているきりであった。塗りたてのペンキの匂いのなかを、仕上場の方へ行って見ると、人っ子一人いない大天井の下に、大半が陳列されたままある。陳列の様子は、小学校の卒業式のときの陳列を思い出させ
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