た。どれも一生懸命、真面目に並べられてある。この陳列をそのえらい先生たちに見せてしまうと、井上は掘った竪穴をみんな元のように埋めて、もうここへは来なくなってしまうわけなのである。
辰太郎は外へ出て、先ず火事を出した竪穴のところへ行ってみた。穴一面に浅く雨水がたまっている。次、次、どれも長方形の池のようだ。辰太郎は、火事を出した竪穴のところへ来て立って、永いことその長方形の浅い水の面に軽い雨粒が落ちてつくる波紋を眺めていた。やがて、何を思ったのかゴム長の爪先でまだそこに盛られている土の塊りの一つをそっと竪穴の空気の中へ蹴こんだ。そして、辰太郎は水の底から何か音のきこえて来るのをでも待つような眼色をした。
底本:「宮本百合子全集 第五巻」新日本出版社
1979(昭和54)年12月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
親本:「宮本百合子全集 第五巻」河出書房
1951(昭和26)年5月発行
初出:「改造」
1940(昭和15)年4月号
入力:柴田卓治
校正:原田頌子
2002年4月22日作成
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