という話がある。土地整理組合というのもこの見とおしに立って、土地もちが会社やそのほか土地を買おうとするのに不当な懸引をされないよう、その反面には地主の間に利益の均等を守ろうというわけでつくられたのであった。
 碌三も祖先代々の麦畑をもって、猛之介も祖父さま譲りの土地をもって、組合が出来るときから入っている。猛之介の土地は、つい近頃一町歩まとめて或る会社に売れた。事変以来地価はあがるばかりだが、特にこの半年ほどは、秤の片っ方へ何がどっさりと載ったのか、価はピンピンとつりあがって、組合での地価も、初めの頃から見れば三倍ほどにはあがった。その価で一町歩売ったのが猛之介である。
 碌三の地面は二町歩ほどであるが、割がわるいところにあった。土地が小さくいくつにかわかれて散在している上に、小さい沢に向って、この頃は乙女椿などが優しく咲いている藪になったところもある。大体が、道路から奥へ入りすぎていた。だから、土地と一緒に必ず道路を問題にする会社関係は、この奥へは手を出さない。坦々たる広い改正道路が新しく出来て、その左右には昔の街道の名残の大福餠屋、自転車屋などが、欅の大木の蔭や苔のついた藁屋根の下
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