腰をおろしていた従弟たちの一人が、やがて急に何を思いついたのか、一寸中学の制帽をかぶり直すとピーッと一声つんざくような口笛を鳴らして、体を横倒しにすると、その砂丘の急な斜面をころころ、ころころと、遠い下まで転って行った。びっくりしたように、あら、といって見ていた従妹も、声高く笑いながら派手な縞の着物の裾を抑えるようにして体を横にすると、わーといいながら同じように、その斜面をころがって行った。見ている私の喉一杯に、涙とも笑いとも名状しがたいものがつき上げて来た。裙を、ぴったりつけた脚の間に捲きこむようにすると、私はきつく目を瞑って、坐っているその場所から、体を倒して砂丘をころがって行った。夢中で、ああこのまんまころがって、何処かへころがり消えてしまえたらと、やきつくように思いながら。従妹弟たちと私とは、何度も何度もそうやって転って遊んだ。ころがる最中の失神のような気持をむごく楽しみながら、私は一度は一度と益々荒っぽく自分の体を砂にまぶしてころがり落ちた。
[#地付き]〔一九四〇年三月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
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