の間で語られなければならないのではないだろうか。今日、学生生活は外部的事情において一変して来ていると共に内面生活は外部にあらわれているよりもよりつよく動かされて来ている。その動かされかたは複雑で弱さも強さも人間らしさの骨頂でもたれていることを痛感しているのは学生自身ではないだろうか。それが現代の文化の波をどのようにうけ、どのようにかえしているかということは、植物にも動物にもない人間の切実な生活史の実質であることを、思っているのは作家ばかりではないだろう。
急激な社会の推移ということもつまりは人間と人間との意欲の交渉の、複雑激甚迅速な動きである。その意味では昨今の地球の呻きは人間ぽさに咽《む》せるばかりであるわけだが、文学が、人と人とのいきさつとして益々多彩にその姿をつかまず、却って生物的な面へ人間を単純化して、現代の禍福をも語ろうとする傾向を一方に生じていることは私たちを深く考えさせる点だと思う。
「結婚の生態」の中で語られているいい生活[#「いい生活」に傍点]の規準は、テニス・コートもある洋風の家と丈夫で従順な妻と丈夫なほどよい数の子供達に基礎をおいているのだが、文学の本来は、そ
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