、結婚というごく社会的な内容の対象を、テーマの上では男の或る意味での平凡な旧套に立つエゴイスムの肯定として扱っている態度とどこか相通ずるものが感じられなくもない。
だけれども「学生の生態」という字を見ていると、私たちの心は非常に変な気がして来るのは、何故だろう。「学生の生態」という字をじっと見ていると、学生というものが現実その書棚のまわりにも群がって埃と膏《あぶら》と若さの匂いをふりまいている様々の心と体との生々しい人間たちではなくて、その本の著者の心情からスーと遠のいて自然科学的な観察の対象と化された半透明な、自発的な意志のない、海月《くらげ》か何ぞのように感じられて来るのは、何と悲しい心持だろう。
ここにたとえて云えば「現代学生の動向」という題があったとする。決してジャーナリスティックでもないし、文学的でもない題だと思う。謂わばこちたき題名で、そこに著者が肩書つきであらわれていれば、随分と取締の立場も感じられる題の一つである。それにもかかわらず人々はその題を見てすぐ日常自分たちと混ってそこら辺にいる生身の好もしく又好もしからざる青年たちとしての学生を感じ、彼等の生活の姿を眼底
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