られていると思われるのである。
 あの作品は、今日に到る日常生活の雰囲気の急転の初めの時期、客観的にも正しいと納得することの出来る生活の基準を模索していた一般の心理が、作者の或る意味での敏感な社会性に反映して生れた作品であった。作品の題名にも現れている作者の体勢が、人々をその内容に向っての興味、期待にひきつけたのであったと思う。生活の在りように対する関心では、この作品と読者の良心とが同一面に顔を合わせているかのようであって実は決してそうでないものが、「生活の探求」の底に埋められてあった。

 あの作品の主題は主人公駿介にとって最も必然的であるべき事物のありよう、その事情に従っての現実的な心持の動きかたという発端が、先ず一ねじりされたものの上に展開されていた。その一ねじりは作者にとってそれから後をプラン通りに運ぶ便宜上役立ってはいたが、あるがままの現実に面してそれを掘り下げて行こうというには、主題が現実の多難性の前で捩れて、裏がえしとなって、読者の心が求めているものとは背中合わせな本質となっていた。全篇の組立てが、作品の主題に於る微妙な一点での一ねじりあって初めて可能であるというこの作者
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