引立てられたのはローザと自分との間にある歴史の発展の大さということについての実感であった。
 獄中におけるローザの手紙は、その中に吐露されている自然の鳥や花に対する優しい情緒や憧憬やに充ちている点で有名である。そのような環境の中にあって公然と書き得る手紙の内容は略《ほぼ》きまったものであることは云えるのだが、私はあのように不屈であり、高い気概に満ちていた尊敬すべきローザでさえも、当時のまだ方向が決定しなかったドイツの運動の段階においてはさけがたいものであったろう或る種の制約をうけていたことを、手紙の多くの箇所に、特に彼女がゲーテの自然科学を研究した観念論者らしい態度に賛同し、自分も環境を無視して今地質の本をよんでいると書いているところで、強く感じたのであった。
 情緒の昂揚に全身をまかせ、詩について音楽について、憧憬《あこがれ》ている旅の楽しさについて物語る時、マルクス主義の立場で経済論を書くローザはいつともなく黙祷だの、美しさだの、神秘だのの感情に溺れている。雲の綺麗さに恍惚として彼女は「こんな色や、こんな形があれば、人生は美しく生甲斐がありますわね」とソーニャに書き、「神様や、空や
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