、雲や、人生の凡ての美しいものはウロンケにいのこりはしません」私の生きている限り、私と一緒にいると云っているのである。
 これらの言葉は、混り気ないローザの心の虹であり、私の感情に非難を呼びおこすどころか、寧ろこの偉大な活動家であったローザのロマンチックな熱情を、可憐なようにさえ感じた。
 私は、一人の平凡な婦人である自分がローザの心持をやさしく眺めて、それをローザが生きていた頃よりは広い土台の上に立って批判をもしていることに、驚かされたのであった。
 個人の才能ではローザのようにとびぬけたものでは決してあり得ない一人の女が、猶且つ卓抜なローザをその歴史性によって理解し得るということはどこからその力が生じているのであろうか。私は、そこに、階級の発展が平凡な大衆の一人一人を、いつしか前進させている力の意味深い実際と、ローザが流した血が無駄でなかったこととの実証があると思ったのであった。
 私は、その書翰集をよみとおす間もなく、再び流通のわるい空気の中に、汗と小便との匂いがつまっている格子の内に、追い下されたのであったが、なかなか感動は消えず、更に一つのことを思い起した。それはゴーリキイが
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