名は、帯もない姿で読んでいる私にそのような十数年以前のことを、おのずから思い出させた。そして長谷川如是閑氏や吉野作造氏の序文がついていることから、当時は全くわからなかったが、その井口という人が新人会初期の時代に青年期を生活した人であったことを理解し、当時の進歩的であった大学生の生活と今日の急進的学生の生活内容との間にある違いの大さを、深く感情を動かして思い較べたのであった。
 ローザについては又別のことも思い出された。片山潜がアムステルダムの大会で演説をしたとき、ドイツ語の通訳はクララ・ツェトキンがやり、フランス語へはローザが翻訳して大衆に伝えたという話をきいたことがあった。
 片山潜は、ローザの熱情あふれた才能につよく心をひかれた様子で、うむ、あれは傑物だった。葡萄酒がすきで、その大会なんかの時も朝から一杯やって、談論風発という勢だった。クララの方はもっと常識的な女だね。老人は、自分で煮た苺のジャムを食べさせながらそのようなことをも話した。
 ローザの手紙はこのほか、カウツキーの妻にやったのを纏めたのが翻訳出版されているのである。しかしこの手紙のところどころ読んで、私が最も強く精神を
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