びてきている。個々の作家の社会的な生活感情は深められ、ひろがり、有機性を高めてきて、個々にあらわれる現象の普遍性を理解し、感じとり、生ける典型として把握するところまできているのである。この点は、とくに第二次世界大戦後の精神における顕著な動向である。人類の文化において、第二次世界大戦後、個人主義が地盤を縮小したということは、個人や個性が消滅したということではなくて、真に個性や価値や自由な発展を確保するためには、その個人の生きつつある社会が、民主的条件を現実にもっていることがどんなに重大であるかということを、学んだという意味なのである。個人生活はいや応なくおしひろげられていて、小市民風な保守の個人主義の枠内で、つじつまは合わせきれなくなってきている。個的[#「個的」に傍点]財布の中の円が百分の一の価値になってきたという事実につながって、A氏B夫人の個的[#「個的」に傍点]経験がいかに複雑微妙に個的[#「個的」に傍点]であろうとも、このような異常な金の価値変化を正常になおすためには、個的[#「個的」に傍点]経験の主張の範囲ではなんの方策も立て得ない。社会・文化の諸現象についても同様であろう、
前へ
次へ
全39ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング