皆無であろうなどとは、想像する者さえない。そのような心持の生きてに出会うということは、必しも望みなくはないのである。自身の求める恋愛の質や内容がはっきり自分に掴めさえすればおのずから対象の条件も整理され可能性の標準も立って来る。恋愛がこの人生に於ける一つの建設である以上、先ず可能を捕えて行くという現実的な勇気がいる。既製品というものは存在しない。そのためには或る人々にとっては自身の求める対象が存在する可能性をもっている社会環境にまで、自分の生活を押しすすめて行こうとする伸展性がいるかもしれない。社会文化が生じて世紀を閲している今日では客観的な意味で、健全な恋愛のためには不毛地帯と呼ぶべきような地域が生じているからである。[#地付き]〔一九三八年十一月〕



底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年7月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
初出:「三田新聞」
   1938(昭和13)年11月10日号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青
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