ているからである。
 若い世代は、率直に、自身に恋愛の権利を認めていると思う。しかしながら、自身に向ってその当然さを認めることと、適当な恋愛の対象を見出し得るか否かということはおのずから別であり、更にその恋愛を互の人間らしい成長の希望、方向に於て発展させ完成させて行き得るかどうかという点になると、事の複雑さは一層深いものになって来る。ここでは、自身と対手との個性が、その出生や成長期の環境からうけている実に多様な諸条件によって交渉し合うばかりでなく、外部的な事情との接触、摩擦、克服の過程で、それぞれの恋愛が形づくられ、完成され、或る場合は破滅させられて行くのである。今日の若い人々が、自身の人生に恋愛を認めていると同時に、一面では多くの場合暗黙の裡に恋愛と結婚生活とを切りはなして考え、行動していることは、注目をひく点ではなかろうか。十人のうち何人かは、淡泊な微笑で自分たちの恋愛を認めるにちがいない。ところが、ではそれは結婚に到るものかと訊ねたとすると、恐らく全部の人が些か困惑し、或は問うまでもないこととして、結婚は思っていない意志を表明するであろう。これは何故だろうか。
 少年の感情の世界
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