人の肉体のために野天と日光がたっぷりあるというだけがとりえのものではないだろうか。底を見ると社会的に不健康なものがあるのではなかろうか。
 時間の不経済な点もあって、私共の間にはもう疾《と》うから、都会生活復帰説が持ち上っている。私共のような知識階級の貧者、同時に生活の愛好者には都会が住みよいことを発見した。そこで生れ育った人間には理屈以外都会に牽きつけられる本能があることをも感じる。――
 それやこれや貸家物色中だが、今一番困ることは、家の寒いことだ。田舎らしく天井がそれはそれは高い。周囲ががらんとしている。そこへ寒い冬の空気が何と意気揚々充満することか! 冬の始め、寒さの威脅を感じ、私共は一つの小さい石油ストーブを買った。夜など部屋から部屋へ移る時、それを点し、提灯がわりにもして下げて行く。石油ストーブというものは、然し、何だか侘しい性質のものだ。点けると当座はぽーっと直ぐ部屋が暖まる。少しいい心持になって、さて消すと、それぎりほとぼりというものがない。すーっと、空気が自ら冷めて、元のつめたさに戻ってしまう。スタンダアドの石油ストーブは、チャスタアという名の石油だけを好む。スタンダ
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