たばたするから、つかまったり、いじめられたりするのだ、と思われる傾きがあった。治安維持法はなるほど野蛮だが、その野蛮な法律がある以上、それにひっかかることをするなら、その野蛮さを身に蒙るのはしかたもあるまい。そういう町人風な保身の分別で、同時代人の叫喚の声がきき流された。一握りの思慮分別の足りない頭のわるい[#「頭のわるい」に傍点]ものたちの抵抗は、一人一人の自分を説得する名目を発見しながらおとなしくファシズムのもとにひしがれることを観念しつつある知性を刺戟した。実体はファシズムや治安維持法そのものに対する嫌悪であり反撥であったのだ。けれども、絶対主義に躾《しつ》けられた日本の知性は、直接その本質的な対象には立ち向わず、それをずらして、ファシズムと治安維持法の野蛮の生々しい図絵をついそこで展開させ、彼らの恐怖を新しく目ざまさせるモメントとなる左翼の行動に対して、恐怖の変形した憎悪と反撥とを示したのであった。
この微妙な日本知性のコンプレックスの特色は、さそり[#「さそり」に傍点]の知恵をもつファシストによって今日ふたたび実に巧妙に測定されつつある。心理学的に、統計的に、社会的世論をつ
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