だから。
ところが、その繊細な、ある意味では人間らしい嫌悪や恐怖に、日本の社会の歴史的伝統の著しい特色が加わった。そして今日外国の知識人がおどろいてそのころの日本の状態を理解しがたく感じるほどの知的麻痺がひき起された。社会生活の現実で、「知らしむべからず・よらしむべきもの」としてあつかわれた人民そのものの無権利状態に、すべての人々がつきおとされたのであった。が、主観的な教養に育ってきたおびただしい理性は、各人のその屈辱的立場を自分にとって納得させやすくするために、暴力に屈して屈しない知性の高貴性や、内在的自我の評価或はシニシズムにすがって、現実の市民的態度では、いちように「大人気ない抵抗」を放棄した。そのとき、大人気ないという日本の表現が、主として徳川時代の武士と町人の身分関係を、無権利だった町人の側から表現した言葉だということについては、吟味されなかった。
あのころ、大人気ない行動をしなかった知性から、大人気ないものとして一種の嫌悪感で見られていたのが、一握りの左翼の人々の考えかたであり、行動であった。侵略的な戦争強行に抵抗して、現実にそれを阻止する力もないのに、ひとりよがりでじ
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