はいつ破れて流れ出すかもしれない薄氷みたいなものの上にとびとびの足場を求めたりするのをいやがっていて、寧ろじゃぶじゃぶ水を渉っても歩み出した方向は失わず行きたい気でいるのだ。そして、そこに、自分たちの時代の若さの一つの形のあらわれ、誠実の一つの姿があるのではなかろうか。慎一の心持では、彼の所謂えらいが面白い、という今日を生きる気持がそこに一致するのであった。
そのとき、流れあっているものを感じたように峯子が顔を擡《あ》げておだやかに真直な視線で慎一を見た。その峯子の瞳は日向で金ぽい茶色に燿《かがや》いている。慎一は美しいと思った。峯子はそのまま捲毛のある首をちょっと傾けるような動作をして、
「――大体おんなじようなことを考えていた?」と訊いた。
「照坊にきいて御覧」
峯子は笑った。それから極く自然な気分のつづきで、
「こないだのお兄さんの話ね」
と云い出した。
「返事いそぐの?」
「そうでもないだろう」
「ひとりできめてしまったりしないでね」
「大丈夫だよ」
「お兄さん、この頃一生の方針[#「一生の方針」に傍点]がお得意だけれど、それにしろ、いろんな立てかたがあると思うのよ。そうで
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