、暫く黙っていたが、
「ね、私、つむじ曲りなのかしら」
ゆっくりまわって来て、慎一の前のところへ跼み、腕木へ自分の柔かい顎をもたせるようにして良人の膝にいる照子に自分の小指を握らせた。
「こういう方たちの気分とはちがうわ。照子のこと思ったって、やっぱり違うところがあるわ。可愛くたってもよ」
「どうせお互に家賃を出しているくらいなら、ばからしいから自分のものを建てようと云うだけの考え方なんだよ。……しかし、ここは何しろ二十四円だからな」
と慎一は笑った。経済的な点ばかりでなく、そこに住む一団の家庭の所謂文化的で品のよいという雰囲気に肌が合わない夫婦が、その年賦の住宅建築に加わる気のないことは、改めて言葉に出さない夫婦独特のわかり合いで峯子にもわかっているのであったが、この話がもし二三年前に出たのだったら、と峯子は、短い間にはげしくかわって来ている自分たちの感情が顧みられた。
こうやってカンバス椅子の腕木にふっくりした顎をのせ、照子の手の中に握らせた小指を振って娘をあやし、自然の笑顔になっている妻の感情が慎一にはよくわかるように思えた。勝気だとか何とかいうのとは全く別な気持ちから、峯子
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