んしながら手を振って笑う照子を自分の膝へ、自分でも気付かないようなすらりとしたうけとりかたをした。峯子はそうやって抱きとってから、隠微に動いた自分の母親の感情におどろいたのであったが、琴子はそんなことに心づかない風で、すこしずれた着物の上前を直し、さっきからそこに出ていた茶をひえたままのんだ。
「あら、御免なさいね」
「いいのよ、いいのよ、うちでもよくつめたくしておいてのむのよ」
慎一などとちがって、山崎は父親の縁故から派手な生命保険に勤務していて、昼の休みは二時頃迄麻雀倶楽部で時間をつぶして来るという方なのであった。
「御無事でおかえりになって、って祝って下さるけれど、やっぱりああいう殺伐な思いをして来たっていうことはちがうわ。ね、峯子さん、この間二人して伺ったとき気がおつきにならなかった? 山崎はどっかちがってしまったのよ、何ていうんでしょう、こう……ひとくちに云えないわ」
琴子はもどかしそうに居ずまいを直した。それは、峯子もあとから慎一と話したことであった。きっと山崎さん、大変自分では大人になったっていう気なのね、そう云ったのであった。細君が何か云ったりするのに対して、さも生
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