露台であった。
「お揃いで、すってんどう、なんていうのは御免だぜ」
 引越して来た当座、外まわりからしらべた揚句、夏などは二人ともそこへ出て夜風にふかれながら、この三年の間には随分いろいろな夜を過した。
「あら、あの高い燈。消防でしょう? 見えるんじゃないかしら」
「こっちの燈が消してあるよ」
 そしてまた二人は子供をもってからも峯子の職業をつづけてゆくかどうかという相談をつづけたりした。専門学校を出てから結婚しても、峯子は、或る雑誌社へつとめていたのであった。
 二階を下りたところの四畳半で、峯子がホワイト・シャツのアイロンかけをやっていた。縁側よりに、同級だった琴子が照子をこっち向きに抱えて、その手元を眺めていた。
「この頃はやりの生めよ、ふやせよもいいけれど、私たちのところなんか、いろいろ影響が微妙で……ねえ」
 一年半ばかり中支へ行っていた山崎は還って来てから、夫婦の間に子供のないのを頻りに苦にしはじめた。そして琴子を医者へやったり、注射させたりしているのだそうであった。
「山崎がそういう心持になったのは無理もないと思うのよ。だけれど、私がわるいばっかりでもないのに……困るわね
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