りでもないような太い声を出して咎《とが》めた。
「どっちなんだよ一体。大いに煽られたいのか、なだめて貰いたいのか、はっきりしろ、人さわがせな」
みんながどっと笑った。飯島もにやつきながら、それでもその話は決して断念し切れない様子で、赤と白との縞の日覆が半分ひろげられている大きい窓ガラスの方へ視線をやりながら、その眼をしばたたいているのであった。テーブルを立ったとき、戸田はモザイックの床の上で靴をパタパタやりながら、
「壮言はビールの泡とともに、か。とんだ飯島のアルトハイデルベルヒだよ」
都会人らしく疳《かん》をたてて云った。
河岸っぷちの歩道を一人で帰って来ながら、今までその場にあった雰囲気を思いかえすと、慎一は、やっぱりそこに、いかにも今日らしい神経の動きを見るのであった。みんな傍観的態度を保っていながら、その一面では飯島の亢奮につよい疑問の形で捲きこまれているのであった。
そして最後に飯島が沮喪《そそう》したようなことを云い出して、動揺している、その動揺をちゃんと感じとるものがめいめいの心にも用意されていた。
慎一の身辺には、飯島の話のような、どちらかと云えば至極単純な罪
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