た高い卓があるところは、見馴れたここの光景だが、カタログ室の方が妙にガランとしている。書籍かり出しに、相変らず時間がかかると見えて、いつからそうなったのか、皮ばりの大長椅子が二列、三かわほど置かれ、そこにすき間なく閲覧者がかけて待っている。それは病院のような、役所のような燻んだ雰囲気である。婦人閲覧者のかり出しぐちは、別に塗板がかけられて、一人専任がいた。これは元のとおりである。
 きょうもまた、古い昭和初期の新聞を出して貰うのを待ちながら、私は特別の関心で、高い卓のあっち側で事務をとっている黒い上っぱりの三人の男の顔だちを見くらべた。まだここにつとめているだろうか。そう思いながら来た人があった。
 はじめてこの図書館へ来たのは、女学校の二年ごろのことであった。元禄袖の着物に紫紺の袴、靴をはいた少女が、教室の退屈からのがれてこの高机の前に立ち、手を高くのばして借出用紙を出したとき、それをうけとった黒い上っぱりの人が、あなたまだ十六になっていないんでしょう? ときいた。早生れの二年生であったから、十六になっていなかった。返事に困って黙っていると、ここは十六からなんですよ、と云って、それで
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