のも、それに鼓舞されて一躍新生涯を創始しようとする者も、またはそれを傍観するものも、共に、貧弱な沈潜力の所有者であるようにさえ感ぜられる。
 強固に、深刻に人生の意識、人類の内容を考察する者が、どうしてよい気持になって、今更過去のお染久松、お夏清十郎の恋の唄を、我等、人類の恋愛理想の極致だと云えよう。また、或る性的生活に対する反省と、革新との意気とが、次第に密に不可抗の中で発育して来た時、誰がそれを、正当に人らしい礼譲と威力とを以て静に強く主張することを「悪」とするだろう。
 そして、若し我々が、自分を知り人生の大道に生きようとするだけの力があれば、自己の生命にあらゆる責任と義務とを感じて、軽々しく外界の刺戟、無責任な煽動によって破滅に導くことも、図に乗らせることも、ともになし得ないのではあるまいかと思う。
 特に性的生活は、実に微妙なものであると思う。我々は、平静に、人としてその方面に対する自己の傾向、年齢の及ぼす影響、圏境等を省察し、自ら支配し得るだけ心の自由を持ちたいものである。殊に、社会生活の実力に乏しい女性が、多くの場合その結果を自己の力では到底回収し得ない、或る瞬間、或る期
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