拡大し、個人の意識が人生に向ってより多様複雑な綜合的人格として働きかけるようになって来ると、一方に於て社会性が強大になるに伴って人間の個性が顕著になって来る。
 一個の社会を形ち造る以上、個々人は決して連鎖のない一つの石っころではない。絶えず相互の利害、あらゆる幸・不幸が有形無形に於て影響し合っているのは明であろう。と同時に、一般が、彼等生存の理想、倫理感等によって認めた肯定の範囲に於ては、一人一人が、各々の負うべき責任と義務とを確信しての自由、独立を共有する。家庭生活というものが部族《トライブ》に隷属した時代が去り、一人一人の希望、趣向、責任によって経営されるようになれば、個人の恋愛、結婚というものもまた、自ら各人の動機、経路、結果によって終始されるべきものとなるのではあるまいか。
 恋愛、結婚等は、あらゆる人類の経験することとして、その概念に於て、または未発の本能に於ては全く共通なものであると思う。けれども、一旦それが実行となった時、あれも恋、これも恋だからといって全然同じ原因結果になると断定することは決して出来ない。恋愛、結婚が、内容に於ては実に個性的なものであると知り種々な成就
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