い。つきつめて外の鳥を見ていた眼をそらせ、グジュウジュウとうっとりひとり鳴きをしながら、粟をつつく。その有様は、心易いような、果敢《はか》ないような感情を起させた。外の文鳥は、自分の入っていた籠や籠の仲間を忘れきったのか?
私共は用事があって夕刻から夜にかけて外出した。私は帰るなり訊いた。
「どうして、鳥は」
留守居の若い娘は、弁解するように答えた。
「いつまでも硝子戸をあけて置きましたが帰って参りませんから閉めてしまいましたけれど……」
「いいよ、いいよ」
友達が云った。
「かえりたくない鳥さんには帰って貰わないでも」
今夜は何処で塒を見つけるのかな。心配するのは人間の心持だ。自然は豊富に、枝の茂み葉のかさなりを持っている。私は硝子戸を静にあけ、外を見た。暗い。室内からさす燈火のかげで、近い樹木の葉が一部分光る。軽く風が吹いた。梢が動く。動く梢のどこかの奥に、あの優美な羽色を夜に沈め、広い世界に出た始めての眠りを快く、爽やかに眠っているだろう文鳥。夢に何を見るか。沈丁花の香りが流れて来た。私は鉢前を見下した。鉢前に、しるしばかりの池がある。池の面がさやかに蒼んで、縁側からは見
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