とするように、小刻みに、自分を自分の囀りで励しながらとうとう、垣根近い樫の下枝まで行った。チチチ。同じ枝の上であっちを向く。直ぐこっちを見なおし籠を見、中で強く不安げに鳴きつづける仲間に応える。幾度に確かな自信ありげなところが出て来た。いよいよ籠に戻るという万ガ[#「ガ」は小書き]一は期待し難い。
「仕様がないな。――今朝ね、カタログが来たので、早くそれを見たいと思いながら、餌が無さそうなので吹いてやったりしたもんだから」
「はずみね。それにこの籠の戸が少し普通より堅いから、ぱたんと落ちなかったのよ」
「一日こうやってもいられないわね……二階に上ってしまおう!」
 文鳥は、樫の枝から八つ手に翔んだ。細い脚でつかまられて、八つ手の手毬のような叢花がたわたわ揺れる。
 昼過になった。日ざしが斜に樹木の葉うらから金色にさすようになった。文鳥は、垣根の外へまだ翔び去りはしない。けれども、今は自由に、右に左、庭じゅうを飛ぶ。人の近よる気勢にぱっと翔び立つ羽音など、つよく雄々しくなって来た。庭にいるのは、籠に残した仲間に牽かれてではないことが明かになった。残された方も幾分独りに馴れ、気が鎮ったらし
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