た違った意味で寂しい。彼女が、さっきからああやって立ったまま根気よく、恐らく決して無い文鳥の万ガ[#「ガ」は小書き]一の気まぐれを待っているのも同じ原因からだろう。
「とんだことを仕たわね、さっき粟をふくときどうしたのか、口を閉めなかった。帰るかしら?」
「さあ……多分だめよ」
「とんだことをしてしまった」
彼女の心持を理解し、私は云った。
「逃げる気もなく、翔んだら広いところに出てしまったというわけね。――でも、全くいいわ、こうして外の景色と一緒に」
暫く眺め、友達は呟いた。
「薄情な奴! 一人で逃げ出すなんて! 帰って来い! 帰って来い!」
私は、微かな哀愁に似たものを感じた。
「――一寸そのままにして置いて御覧なさい。余り私達がそばにいると、却って近よらないかもしれないから」
私共は、トウストをたべ、紅茶をのんだ。その間にも、友達はちょくちょく縁側に出て見た。
「どう?」
私はこちらの部屋に坐ったまま訊く。
「うむ?」
気をとられた生返事だ。私も立ってゆく。二人で見る。文鳥は、さっきから見ると大分外気に馴れた。一はばたきごとに、違った枝、違った樹木の匂りを味い、知ろう
前へ
次へ
全9ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング