上の軒に吊った、しゃれたサラセン風円屋根つきの籠の中では、のこされた一羽が、外の一羽から目をはなさず、切ない調子でせきこみ、鳴きかけている。チチ、チチュン。外のは内の仲間の鳴声に心牽かれる。さっと水際立った翔び立ちはとても出来ない。チチ。……一寸近よりそうにする。然し、鳥の本性は籠の中より野天の甘美なことを熟知しているに違いない。縁側の手前よりこっちには、決して、決して来ない。チチ、チュ。……思いかえしたように、また元の菊の葉かげ、一輪咲き出した白沈丁花の枝にとまって、首を傾け、黒い瞳で青空を瞰《み》る。次第に強い憧れや歓喜が迫って来るらしい。自然の輝きある朝の緑、幹の色、土の色の裡で、文鳥は本当に活きている小鳥のように見えた。
「つかまえられて?」
 私は、外景に於て見る文鳥の美しさにまけ、捕まらなくてもよいと感じる。つかまっては淋しいようにさえ思う。
「――妙なものね、鳥はやっぱり樹や草と一緒に見る方がずっと立派ね、まるで色が引立つじゃあないの、ずっと綺麗ね」
 この一対は二月、私の誕生日に、友達である彼女が雨の降る中、買って来てくれたものだ。そう思えばこのまま放してしまうのは、ま
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