整然と卓子の上に置かれている。――奇妙なことと思い、少し不安を感じた。起きた順に、朝食はすまして勉強することに定めてあるのだから。見ると、日の照る縁側に、まだ起きぬけのままの姿で、友達が立っている。ただのんきに佇んでいるのではない。丁度自分のところまで閉めた硝子戸によりそい、凝っと動かず注意をあつめて庭の方を視ているのだ。私は生きもの同士が感じ合う直覚で、ひとりでに抜き足になった。そして後から廻って近よった。
「どうしたの、なあに?」
「文鳥が逃げちゃった。そこにいるのに」
成程! 籠の中は一羽だ。つい鉢前の、菊の芽生えの青々とした低いかげにもう一羽が出ている。外にいる方の文鳥は、見違えるほど綺麗に感じられた。瑞々しい、青い、四月の菊の葉に照って、薄桃色の、質のよい貝殼のような嘴、黒|天鵞絨《ビロード》のキャップをのせた小さい頭、こまやかな鼠灰色の羽なみが、実に優美だ。鳥は、チチ、チチ、と短く囀りながら、二とび三とび地面を進んで見る。思いがけず翔び出した広い空気をまだ信じられず、子供らしく愛らしく、愕きに満ちているようだ。その感情のあらわれた、不決断な風が一層美しさを添えた。ついその
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