と、いきなり二重に自分の顔や手つきが映り、不気味になる。――ああ、こんなにすき透し! 泥棒にすっかり見られてしまう。どうしても、カアテンがなければ駄目だ!
カアテンをまだ買わないので、朝少し眩しい。私は沢山ぐっすり眠りたい。そこで、工面をし、机の引出しから友達の香典がえしに貰った黒縮緬の袱紗を出した。それを二つにたたみ、鼻の上まで額からかぶる。地がよい縮緬なので、硝子は燦く朝なのに、私の瞼の上にだけは濃い暗い夜が出来る。眠り足らず、幾分過敏になりかけていた神経は快いくつろぎを感じ、更に二三時間休みを得るのだ。
一緒に暮している友達は、いつも私より一時間位早い。彼女は、目が醒めると勢よく二階から降りて来る。その階子が、私の眠っている部屋の頭の方に当るので跫音は大抵ききつける。ききつけながら、私は眠りつづけるのだが、友達は、どちらかといえば私にも早く起きて欲しいに違いない。起きてよい頃と思うと、物音に遠慮しない。
然し、その朝は余り眠く、体がくたくたであった。眠いという溶けるような感覚しか何もない。十一時頃茶の間にやっと出た。まだ包紙も解いてないパン、ふせたままの紅茶茶碗等、人気なく
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