が、誰のものでもない春桃の感じがあるのであった。「李茂の夫権意識は激しく動いた。」
「そんなら、ひとがきっと生きている王八《ワンパ》(女房をとられた男)と笑うだろう」
「王八」ちょっとふくれた春桃は、しかしやはりおだやかに云った。「金もあり勢力もある人しか、王八になる心配はないんだよ」「今、わたしの体は、わたしのものだよ。わたしのすることが、あなたに恥をかかせることは決してない筈だよ」
 李茂は、「一夜の夫妻は百日の情」というけれども、その百日はもう十以上も過ぎた。春桃は一人で住んで仕事を見つけ、手伝いに向高を見つけた。「情愛から云えば、むろん、李茂に対しての方がずっと薄い」春桃が李茂を連れて来たのは、親たちのつき合い仲間への義理や同郷のよしみからであった。「あんたがわたしを女房だと云っても、わたしは云いません」そして、春桃は泣いた。
「あんたが片輪だからって、にべない仕打ちは私に出来ない。ただわたしは、あの人をすてかねるんだよ。みんな一緒に暮して、誰が誰を食わしてやってるなんて考えないことにしたら、いいじゃありませんか?」
 李茂と向高とは、春桃と三人で暮しはじめた。向高は、少し本を
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