より先の民主社会の創造力を表現している。半ば眠り半ばは確乎と覚醒している厖大なアジアの一国、中国で、資本主義以前にありながら、しかも、目下の急速な世界情勢の動きにつれて、豊饒な民族資源が才能さえも含めていきなり最も民主的方法で開発される十分の可能をもっているという事実は、私たちにとって、興味以上の感動すべき注目事である。

          二

 春桃は、徳勝門《ドーションメン》の城壁に沿った廂房に暮している三十歳ばかりの、すっきりとした清潔ずきの屑買い女である。崩れのこった二間の廂房の外には、黄瓜《きゅうり》の棚と小さい玉蜀黍《とうもろこし》畑とがあり、窓下には香り高い晩香玉《ワンシャンユイ》が咲いている。劉向高《リウシャンカオ》という、同じ年ぐらいの少しは文字のよめる男が、春桃と同棲している。向高は、春桃が一日の稼ぎを終って廂房に戻って来ると、いつも彼女の背をもみ、足をたたいてやった。そして商売の上では、価のある紙質や書類をよりわける。向高は、春桃をどうしても女房や、と呼びたい。そして、実際にそう呼ぶ。けれども春桃はその度毎に、「女房、女房って、そう呼んじゃいけないって云ってる
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