傍点]のつよい近代出版業者たちと日夜もみ合いながら、上向する社会全般の経済関係の中で、互に勁《つよ》くなって来ているように思える。文学者の力量は文学者として十分生活上の経済的基盤を与えるし、そのことは作家の思想性をも確立させ、強大な出版企業に対抗するだけの社会性を身にそなえたものとして来ているかと思える。
 日本の作家の事情は、少くともこれまでは、中途半端であった。一定の文学的力量は、比較的たやすく彼及び彼女たちを食わせるようになる。けれども、その食わせかたは、日本的水準で、謂わば、手から口へ、という状態からあまり遠くない。一人の作家が、時流におされて、或る程度日常生活を世俗的に膨脹させてしまうと、そのふくらんだ日暮しを、ころがしてゆくために、執筆は稼ぎとならざるを得ず、稼ぎともなれば、注文に敏感ならざるを得ない。
 戦時中、日本の文学者たちが示したおどろくべき文学精神の喪失は、日本の野蛮な権力による文化圧殺の結果として見られるものであるけれども、兇悪な権力が出版企業と結合して、薄弱な日本文化・文学を底から掘りかえして来た過程は、惨憺たるものがある。
「春桃」一巻は、私たち日本の作家に
前へ 次へ
全24ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング