流転す」とでもいう感銘を与える。ふと目をあげて向いの化粧鏡に映った自分の姿、その髪は乱れ、毛糸のシャツを着て蒼ざめた顔、眼はいくらか血走って、眼尻に多い皺。淑貞は又その写真を手にとって無邪気に云った。「母さん、この人たちこんなに活溌でかわいいのね。わたし達そう云ったのよ。みんなで一緒に大学へ入学しましょうって、きっと……」C女史は答えない。C女史はそっと下唇をかみ、涙ぐんだ眼を、窓の外に向けた。そして心配そうに「母さん何を考えていらっしゃるの?」ときく淑貞の手を軽くとって云った。「淑貞や、私は中国へ帰ろうかと思っているんだよ」
冰心女士は、読み終った人々の心の中に同情と哀愁とを湛えさせたまま、そっと自分はものかげへ退いてしまう。ここには、何と東と西とがまざまざと在り、しかも同時に、その東と西とをひとくるみにする人間らしさが流れているだろう。字が読めない中国の女も、必ずそれは巧みであるとされている中華刺繍の一片は、絹の糸のよりかたから、糸目の並べかた、色の配合、すっかりそれはフランスの刺繍と違う。アメリカのドローン・ワアクとも違っている。違うことにある美しさ、美しさ故に世界の心にしみ透
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