、結果として、正隆の求め得る結論以外のものは出て来よう筈がない。
自分の正直な、真実な仕事が、劣等な疑と不公平な判断によって、現に、拒絶されたという事実は、翻って、妄想かも知れないと思いかけていた過去の、K県での経験までを、疑い得ない事実として、正隆を首肯させた。そうなると、彼の最初の踏み出しから、今日まで、正隆は、ただ不正の、悪策の的となっていたようなものなのではあるまいか。
悪計を運用する台として、或る処へ運び出されたようなものである。その運び出す餌として、自分は、僅かな、然し力強い幸福を覗せられた。幸福を厭う人間が、この世に独りでもいるだろうか? 皆は幸福を求める。その皆の求めるものを自分が求めて、釣り出されたことは、自分としては自然である。が、相手にとって、自然であることを、係蹄に使うのは、或る警戒を与える策略よりも、数等卑劣である。正隆は、彼にとって、全くの不幸であった、人々の無責任によって、止途もなく疑の底に滑り込んだのである。
彼は、先ずK県に於て、その発端を現した不吉を呪うべき運命が、着々とその確実な計画を遂行して、今日、第二段落の成功を納めたのだとほか思われなか
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