い正隆は、自分の眼鏡にかなった者を、拒絶する筈はないという自信で、かなりまで独断で事を進めた未亡人は、いざという最後の一点まで来て、事実を正隆に洩したのである。
女性に対する神秘さを失って、結婚などということを、彼の年齢に比較すると、想像以上の現実さで考えていた正隆は、美しくもない婦人を貰って、義務を負わされる生活は、堪らないと思っていた。
それで、母未亡人が、最初にそろそろと口を切り出した時にも、彼は例の通り鼻であしらって、どうでも好いという表情をしながら、煙草をふかしていた。
けれども、自信のあるらしい母未亡人は、何か楽しい詭計を持つ者のように微笑みながら、
「正隆や、お前ほんとにどうでも好いとお云いなのかえ。好い縁を取逃して、後で口惜しがったって、私の知ったことじゃありませんよ」
と云いながら、わざと紙に包んだ写真を膝の上でひけらかした。それに釣られて、思わず、
「一寸お見せなさい」
と云って手を延した正隆は、紙を開いて中を見ると、一目で、これは! という顔をせずにはいられなかった。
それほど、中の婦人は美しかった。その美しさも、数年間、彼が胸に抱いていた、その型通りの美
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